活動報告

沖縄県立球陽中学校で研究授業をしました。

まだ最高気温が30度になる沖縄で、研究授業を実施しました。

今回、お招きいただいたのは沖縄県立球陽中学校です。中高一貫の公立学校です。迎えてくれたのは中学3年生の生徒のみなさん。礼儀正しく明るい笑顔が印象的な学校です。

授業のテーマは「偽定理を探せ!」

これは中学1年生から大学生までどの学年でも実践していただける授業として、『AIに負けない子どもを育てる』(新井紀子著、東洋経済新報社、2019年)でも紹介しています。冒頭で、「真偽が決まる文を命題という」という定義を紹介し、どのような文が命題で、どのようなものはそうでないかを区別できるようにします。その上で、真であることが証明された命題を「定理」と呼ぶと説明し、「今日、皆さんは数学者になって、命題の真偽を見分け、真だと思うものには証明をつけましょう。偽だと思うものには、偽である証拠を見つけましょう」と活動の概要を説明しました。

ここまで約5分ですが、すでに球陽中が、私が今まで「偽定理を探せ!」を指導した中で、ずば抜けて「よく耕されたクラス」であることを感じました。

よく耕されたクラスの特徴は、「集中できる」「聞ける」「待てる」にまず現れます。「どれが定理かどうかなんて、自分には関係ない」と思えば急速に興味を失うものです。経験が限られている児童生徒は、どうしても視野が狭い面があります。「待てない」「聞けない」ことで、可能性を狭め、世界への窓を閉じてしまうのを見ると残念に思います。

このクラスは、5分間、一人も脱落せずに話を聞いているので、今日はだいぶ先に連れて行ってあげられるな、と直感しました。

 最初の問題は定番の「0は偶数か」問題です。

0は偶数である。

 偶数に手を挙げた生徒が圧倒的多数でした。(※RSTで大学生や一般社会人の3人に2にが「0は偶数ではない」を選ぶのに比べて、球陽中の3年生がいかに定義を正確に読めるか、がわかります。)ただ、数名「これは偽定理」だと言いました。

意見が割れたときには、定義に戻ることが重要です。

偶数の定義は?というと手を挙げて次のように答えてくれた生徒がいました。

2で割り切れる整数を偶数という。

「0 割る」と聞くと、「できない」と反応するRST受検者は少なくありません。「どんな数も0では割れない」ということと混同しているのでしょう。0は2で割り切れます。やってみましょう。

0÷2=0 あまり 0

つまり、これは真の命題で、しかも証明がつきましたから、「定理」になりました。

ここで、「偶数を他の文章で定義できますか?」と聞きました。すると、

「整数の並びは偶数、奇数、偶数、奇数、・・・と順番に繰り返す」という意見が出ました。

「でも、整数の並びは、奇数、偶数、奇数、偶数、・・・と順番に繰り返しているともいえるのではありませんか?」と問いかけると、はっとして、「ああ、確かにそうです。これではだめです」と返事がありました。このように指摘をされたときに、自分で「はっ」とする、ことが学びではとても重要です。はっとして、ああそれではだめだと思うから自分で修正ができるのですから。「はっ」とする瞬間、子どもは一番自分ごととして学ぶと感じます。

そうこうしているうちに「2の倍数を偶数といいます」という意見が出ました。私が「変数を使ってみませんか?」と誘うと、「$$2n$$で表される整数。(ただし、$$n$$は整数)」という意見も出ました。定義は何種類か持っていると使い勝手が良いのです。それはおいおいわかってきます。

次も定番問題です。

どんな素数も奇数である。

まず、素数の定義から振り返りました。

1とそれ自身以外は約数をもたない、1より大きい整数を素数という。

素数の定義は数学でしかありえないような複雑な形をしています。悪文といってもいいでしょう。けれども、それ以外表現のしようがないのです。平易な文では表現できないことが科学の中にはたくさんあります。

球陽中ではあっという間に、これは「偽定理」だと見抜かれました。理由は「2は偶数で素数だから」です。「反例」です。反例をみつければ、偽定理だということを簡単に説得できます。

次に挑んだのは次の命題です。

連続する2つの整数の和は、奇数になる。

こういうシンプルな命題を証明するにはコツがあります。それは式にすることです。式の中には「ことば」を含めることはできません。「連続する2つの整数の和」を式にするにはどうしたらよいだろう。

そう、変数を使えばいいんです。

連続する2つの整数の和は、$$n$$を整数として、$$n+(n+1)$$と表すことができる。

$$n+(n+1)=2n+1$$

なので、これは奇数である。

式にすることの良さは「式にすれば勝手に式が考えてくれるところ」(by ライプニッツ)にあります。変形すると、「奇数だ」という証拠が出てくるわけです。先ほど、偶数の定義として、「$$2n$$(ただし$$n$$は整数)と表せる数」という確認をしておいたことが、ここで効いてきます。

このクラスならば大丈夫と思い、最後はちょっと難しい問題を出しました。

連続する2つの整数の積は偶数になる。

一般に、いくつかの数に、ひとつでも偶数が混じっていれば、その積は偶数になります。

多くの生徒が「$$n(n+1)=n^2+n$$」という式を前に「うーん」と悩んでいます。その悩める時間の長さこそが、生徒の伸びしろになります。

ここには答えは書きません。みなさんもぜひ「うーん」と悩んでみてください。

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北谷町で講演会を開催しました。

北谷町は沖縄県で最初にedumapの一斉導入を決めた自治体です。

台風が多く、また人口10万人当たりの新型コロナウイルス感染者数が多い沖縄において、edumapが導入され、保護者に対して迅速に緊急情報が伝わり、子どもたちの安全が確保されること、そして休校中の学びが保障されることは、「教育のための科学研究所」の願いです。

今回、代表の新井紀子が沖縄を訪問する機会に、北谷町を訪問させていただくことになりました。

会場となった浜川小学校は、多様なバックグラウンドをもつ児童の多い学校とのこと。Chrome(Googleが提供しているブラウザ)を活用すれば、edumapを使った学校ウェブサイトの情報は多言語翻訳されること、保護者の多くがスマートフォンでアクセスしてくることを前提に設計されていること等をお話すると、新型コロナウイルス対策をとった上で、edumap研修会を開き、全校スムーズに導入したいとのことでした。

edumapの説明の後、リーディングスキルテスト(RST)や、RSTの全数・縦断調査をしながら、読解力を幼稚園・保育園から中学卒業までにすべての子どもに身に着けさせようと独自のカリキュラムを設計している板橋区や、研究授業の共有をしている福島県の例をご紹介しながら、「科目に偏らない汎用的読解力」とは何か、そして、なぜそれを身に着けさせることが重要なのか、また、なぜそれが(子どもが自由に本を選ぶ形式の)読書の奨励だけでは達成が難しいか、ということを、①教科書に書かれている具体的な文章の比較、②本による語彙数の偏り、③物語の筋を追う読み方では理数科等で求められる論理的な読みがなかなか身に付かないこと、などをお話し、「教科書を日々、しっかりと深く読み込む」ことの重要さをお話ししました。

 

 

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板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。

10月1日、令和2年度板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業(第2回目)が、板橋第一中学校で行われました。教育のための科学研究所からは、新井紀子代表のほか、菅原真悟上席研究員、犬塚美輪学芸大学准教授(教育のための科学研究所客員研究員)が参加し、各科目の研究授業の参観、助言を行いました。

研究授業のひとつである中学2年生の数学は、一次関数が題材でした。関数は中学生にとって最も理解が難しい内容のひとつで、一次式と一次関数の区別がつかない生徒も少なくありません。教育指導要領が求める「数学を使うことの良さ」を実感させることもなかなか難しい単元です。

本授業では、教育のための科学研究所からの事前助言に基づき、3つの問いから始まりました。

次の文章のうち、「変化する2つの量」の関係が「一次関数」になっているものはどれかを考える問いです。

  1. ダイエットに挑戦したが、体重が増えた日もあれば減った日もあった。
  2. ひまわりの種をまいたところ、芽が出てからしばらくはなかなか成長しなかったが、その後ぐんぐん成長し、花が咲くころに成長が止まった。
  3. 冷たいペットボトル飲料をある保冷バックに入れて持ち歩いたところ、その飲料は時間がたつにつれてほぼ一定の割合で温度が上がることがわかった。

クラス全員が3が一次関数であると手を挙げました。

授業者はここで流すことなく、(1)なぜ3は一次関数だと思ったのか、(2)1と2はなぜ一次関数ではないと思ったのか、を生徒から文章で引き出していました。これは、具体例同定(理数)の活動として位置づけられました。

「3は時間に対して一定の割合で温度が上がるので一次関数になる」「1は時間に対して体重が一定の割合で増えても減ってもいないので一次関数ではない」「2は時間に対してひまわりの成長が一定でないから一次関数ではない」

ただし、2について「変化する2つの量」が何かがわからない生徒もいました。「ひまわりの高さ」が明示的に文中に書いてないので迷うようです。このように、ふつうに書かれている文章の中で、着目すべき数量が何かを取り出すこと、そして、その関係を式で表すことの良さ(=未来や過去を予測できる)を感じてほしいと思います。

次に授業者はプリントを配布しました。そこには、実際にペットボトル飲料の温度がどのように変化したかが表になっています。

20 30 40 50 60
5.2 5.8 6.4 6.9  7.6


まず、「変化量」を見ます。小数が入る2桁の引き算を4回しなければならないのですが、結構時間がかかりました。やはり小学校で3桁の計算までは苦労なくできるようになって中学校に進学しておくと、中学校の授業では概念理解に集中できますね。適度な量のドリル、そして中学入学後も一定量の四則演算ドリルは必要だということがわかります。

さて、差分は、0.6, 0.6, 0.5, 0.7になりました。平均すると「10分ごとに約0.6度上がる」と言えるというところまでは全員が納得できました。ところが、「1分(1単位)ごとにどれだけ変化するか」がなかなかわかりません。

「10分で0.6度上がる」⇔「1分で0.06度上がる」

の変換が難しいようです。これはRSTでは「同義文判定」に位置付けられる内容です。

このあと、表をグラフで表し、式にしていきます。その際、教科書に書かれている一次関数の定義を振り返ります。

一次関数とは$$y$$を$$x$$の一次式で表せる関数のことである。

$$ y=ax+b $$

$$a,b$$は定数

この定義を正確に理解するのが極めて難しいことが、RSTのこれまでの結果からわかっています。

まず、$$a,b$$は定数という但し書きを読まずに、前提なしに「$$ax+b $$」という形の式は一次式だと勘違いする生徒(学生)は東大生にも少なくありません。また、「$$y$$を$$x$$の1次式で表せる関数」を正しく読解できる生徒は少なく、その後に書いてある$$ y=ax+b $$を一次式だとほとんどの生徒が読みます。正しくは、$$a,b$$は定数のとき$$ax+b $$は一次式であり、そのような$$x$$の一次式として$$y$$を表せる、つまり$$ y=ax+b $$と表現できるとき、一次関数といいます。

このように解像度高く読まないと、数学では様々な概念を混同してしまいますので、注意が必要です。授業者には、生徒の興味関心を引くだけでなく、解像度高い読解を促すような問いかけも意識してほしいところです。

プリントで示された表には初期値、つまり最初の温度が書かれていません。20分後からの表だけです。$$x=20$$と$$x=60$$の$$y$$の値から、連立方程式で式を求めるか、変化の平均値が1分ごとに0.06度であることから$$ a=0.06 $$は得られているとし、20分後の値から一次方程式を解くことで、切片である$$b$$を求めるなど、いくつかの方法で生徒たちは、求めるべき式、

$$y=0.06x+4$$

を導出しました。一人ひとりだとなかなか難しかったので、隣どうしで話し合いを行うことで計算間違いを見つける等の手がかりを得て、式にたどり着けた生徒が多かったようです。ここでも小数のある計算、特に割り算に中学2年の段階でも課題が残っていることがわかりました。

こうして、「ペットボトルの中の飲料は、時間を$$x$$としたとき、温度yは$$ y=0.06x+4 $$という式に従って上昇する」というまとめで授業は終わりました。

ここで、新井が手を挙げて、こんな問いかけをしました。

では、1600分後には、ペットボトル飲料は沸騰しますか?

これは生徒も想定外だったようでざわつき、「そんなことにならない」と言いましたが、「だとしたら、それは特定の$$x$$の範囲においてのみ一次関数である」ということに気づいた生徒もいたようです。次回の展開が楽しみです。

 

※冒頭の「ひまわりの成長」についての文章はもう少し詳しく書いたものを、2011年に実施された日本数学会第一回大学生基本調査のプレ調査として2010年に行われた調査で「ひまわりの成長を適切に横軸と縦軸をとって、概形を表しなさい」という問題として出題しました。教員養成系大学で大変悲惨な結果になったことが思い出されます。

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授業研究会で講演を行いました(戸田市教育委員会・戸田市立笹目小学校)

9月25日(金)、戸田市立笹目小学校において、当研究所上席研究員 目黒朋子がリーディングスキル(RS)向上に向けての授業研究会で講演を行いました。

5年生の社会科の授業「水産業のさかんな地域」ではリーディングスキルテスト(RST)の6つの視点の一つである係り受け解析を軸とした研究授業が行われました。

研究授業終了後の授業研究会では目黒からRST-laboふくしまで発表した実践を中心に、授業づくりのポイントを紹介しました。

詳細は戸田市教育委員会のFacebookをご参照ください。

 

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板橋区iカリキュラム「読み解く力」育成への助言を行いました。

板橋区では、幼稚園・保育園から中学校卒業に至るまで、「読み解く力」を中心に据え、ひとりの子どもも取り残さない「iカリキュラム」の策定に着手しました。

2020年9月、板橋区教育委員会で教育長、担当指導主事らが、まず小学校の教科書を徹底的に読み込んだ上で、児童がつまずきそうな箇所をリストアップする作業が始まりました。中川教育長の「教科書採択をするときには気づかなかったが、小学校の教科書はこんなに難しいのかと驚いた。けれども、これを読み解くことができる児童が育てば、本当に素晴らしいことだと思う」という感想を始めとして、指導主事からも「授業にばかり目が行って、こんなに時間をかけて教科書を読みこんだことがなかった。RSTの6項目の観点から教科書を読むと、『あ、ここは具体例同定だ』『ここで問われているのが推論の力だ』ということを実感できた。なぜもっと早く教科書を読み込まなかったのだろう」という声が聞かれました。

板橋区では、小学校の国語と理科は東京書籍の教科書を採択しています。教科書から学習に必須の「学習語彙」をリストアップした上で、その意味を授業中にではなく、それより前に教員が意識して児童の語彙に定着させてから授業を受けさせれば、語彙量が少ない児童であっても、授業の内容が腑に落ちやすいのではないかなど、具体的な方策を活発に話し合いました。

小学2年生上の国語の教科書には、「サツマイモのそだて方」という説明文が取り上げられています。サツマイモの育て方を説明した2つの文を読み、説明の仕方の違いを比較するというかなり高度な教材です。3年生の理科「植物の育ち方」につながる良い教材なのですが、低学年にとっては語彙親密度が低い語彙が並んでいるのが難点です。

語彙の例:五月のなかごろ、なえ、しおれる、やがて、つゆのころ、くき、つる、うね、しげる、えいよう

こうした語彙の意味がわからないと、この教材を理解することは難しいでしょう。でも、国語の時間に「うね」や「つる」「しおれる」を言葉で説明したり、スライドを見せたりしても実感がわかないかもしれません。であれば、むしろ、総合的学習の時間に、実際にサツマイモをこの説明のとおりに育ててみて、秋に収穫をし、「うねをつくる」「たかうねにする」「つるがのびる」様子を観察することで実感をもたせてはどうか、という案も出ました。

住環境等の制約で、植物や生き物を育てる機会がない児童は、板橋区には少なくありません。秋に収穫して食べることができるサツマイモを国語の教科書のとおりに、(あるいは、国語の教科書とは異なる方法で)育ててみて、どれだけ収穫できたかを長さや量で比べることができれば、2年生の算数の「長さ比べ」や3年生の「重さ」にも展開できる内容になります。

「そう思うと、総合的な学習の時間や、教科横断というのが、当たり前のことに思えてきました」「わくわくしますね」という声が上がる、良い話し合いの場が持てたと思います。

今後も、教科の枠を超えて、「読み解く力」「学ぶスキル」を向上させるための板橋区のカリキュラム構築を応援していきたいと思います。

写真:下は「新しい国語 二上」(東京書籍)86~87ページ、上は「新しい理科 3」(東京書籍)38~39ページ

 

参考:新井紀子所長が2020年5月にサツマイモの端から「リボベジ」で育てたサツマイモの様子

東京書籍「サツマイモの育て方」の2つ目の説明の「ひりょうを やりすぎると、くきと はだけが のびて しまい」に従って、肥料はやっていません。ちなみに1つ目の説明は、いわゆる「豊かな表現」なのですが、土や苗の選び方が具体的ではなく迷うことが、実際に育ててみるとよくわかります。

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板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。

板橋区では、2019年度から区内全小中学校でRSTを導入し、児童・生徒の読解力を診断しながら、「読み解く力」を向上するための授業開発や全校取組み、自学自習支援手法の開発を行っています。新井紀子所長や菅原真悟主席研究員、客員研究員の学芸大学の犬塚美輪准教授らが本取組の支援を行っています。

9月9日、板橋第二小学校において、新型コロナ対策を行った上で、2020年度最初の研究授業が実施されました。今回は、2年生の算数、3年生の理科、4年生の社会、6年生の国語で研究授業が行われました。

4年生の社会科の「自然災害から人々を守る活動」は新指導要領で導入された単元です。自然災害が多い日本において、地域の関係機関や人々が様々な協力をして対処してきたことや、今後想定される災害に対して、様々な備えをしていることを学び、自らも防災・減災への意識を高めていくことが求められます。防災については教科書だけでなく、自治体が発行している防災の手引きなど参照すべき資料も多く、4年生にとっては、難易度の高い単元といえるでしょう。

本時のねらいは、特に地震に焦点を当てて、地震災害から安全なくらしを守るための様々な取組について調べ、「公助・共助・自助」の意味を理解し、調べたことを分類すう活動をとおして、様々な人が取組をしていることを知ることにあります。

授業はまず、教科書の該当箇所を全員で音読することから始まりました。

「家庭・学校・通学路で地震にそなえる

 地震では、ものが落ちて起きたり、家具などがたおれてきたりします。家具の転倒防止は家庭でできる地震対策です。電気や水道が使えないときにそなえて、防災用品のじゅんびが大切です。」(教育出版「自然災害にそなえるまちづくり」より)

めあてを共有した後に、教科書の該当箇所を読み、その文章の構造を理解することは、「読み解く力向上」のために板橋第二小学校全体で取組んでることのひとつです。そして、その朗読箇所が次の問いかけにつながっていきます。

「地震から安全なくらしを守るために、誰がどんな取組をしているのかな。教科書や資料から取組を探して、

(     )が、(                      )

という文章で書いてみよう」

指導案では、この箇所は文の構造を把握しながら読む「係り受け解析」として位置づけられました。ただ、教科書や資料の文は上記の形式で書かれているとは限りません。その場合は、教科書の内容を単に写すのではなく、上記の形式に同義であるように変換する「同義文判定」の力も試されます。

4年生は学力差が顕在化する学年です。手際よく5つも6つも探せる児童もいれば、1つも挙げられない児童もいます。冒頭で音読した箇所に2つ答えが含まれているのですが、それになかなか気づけないようです。指導者は机間巡視しながら、そういう児童に対して、まずは音読した箇所から探してみることを勧め、そこから

・家の人が(自分が) 家具の転倒防止に取組む。

・家の人が(自分が) 防災用品のじゅんびをする。

という2文をまず書けるように励まします。

さて、ここで「誰がなにをする」という形式で文章を書かせたのには理由がありました。次に指導者は、

公助:区や都などが区民・都民を災害から守る。

共助:地域で協力して災害から守る。

自助:自分で自分の身を災害から守る。

という定義を示し、児童がみつけた具体例をこの定義に沿って分類する「具体例同定」の活動を行いました。たとえば、上の2つの例はどちらも主語が「家の人」や「自分」ですから「自助」に分類されることがわかります。

「江戸川の自主防災組織が、災害に備えてくんれんをしている」は共助に、「自衛隊が救助する」「板橋区が避難所を開設する」などは公助に分類されました。

コロナ禍の中、グループで議論することができなかったことが残念でしたが、特殊な機材や準備をしなくても、教師の工夫次第で、授業が読み解く力を育む授業へと変容することを実感できた授業でした。

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板橋第二小学校では、普段から様々な仮説を立てて「読み解く力」育成に取り組んでいます。たとえば、「各学年の授業において共書きができるスピードでノートを取るには一分間に何文字書ける必要がある」ということから、学年ごとに目標字数を定めて、1分視写の時間を毎週設けています。指導者が板書をするのと同じ時間でノートが取れれば、すべての児童が、探したり考えたり、考えを文章にまとめたりする時間に充てることができるからです。この取組みを通じて、1年生は6月の新学期時に比べて9月には平均して2倍の量の字数を書けるようになりました。

授業後の研究会では「授業に苦痛なくついていくことができる程度にノートを取れるようになるため」に視写をするのだから、視写という手段が目的化しないよう、個々の進度を見ながら、視写力がついた児童から高度な課題に取組ませたいという意見が出ました。また、社会科の教員からは「児童はどうしても自助ばかりに目がいくようだ。公助と共助を理解させることが単元の目標としては重要。次の時間では公助と共助を強調して定着させてはどうか」との意見もありました。

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F-labo 8月例会を開催しました(rst-laboふくしま)

rst-labo ふくしま(通称:F-labo)では、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学びあいを行っています。

7月の例会に続き、8月の例会が郡山市労働福祉会館で開催されました。

 

まず、奥羽大学准教授の伊藤頼位先生から、「RSTをより深く知るための言語学的視点」と題した発表がありました。
伊藤先生の専門である言語学という視点(「述語項構造」、「命題論理」、「マッピング」の知見)からの読解プロセスの理解とRTSの6分野7項目の関連について詳細な説明が行われました。
発表の目的は、「RSTの背景にあると考えられる言語に関する知見を知ることによって、RSTの設問や受検結果をより深く理解し、実践でのアプローチの基盤を強化する」ということで、まさに、授業実践者が基盤として理解しておくべき言語学の知識を深めることができた貴重な発表でした。

 

次に、奥羽大学講師の金原淳先生からは、「共書きの実践とその感想」ということで、RSFで当研究所所長・代表理事の新井紀子が行った授業を参考に、共書きを取り入れた授業実践報告がありました。
金原先生は紆余曲折を経て、パワーポイントでの提示内容に、補足内容や演習解説をペンタブレットで上書きし、それを学生と共書きするという授業スタイルを構築したそうです。その授業スタイルで、口頭説明と共書きを絶え間なく繰り返す授業を行ったところ、学生の授業の理解度が向上し、授業後の質問が増えたとの報告がありました。金原先生の授業スタイルには、今後のICTを使った授業やオンライン授業のヒントがちりばめられていました。

 

最後に、F-labo事務局の加藤政記先生から、昨年度1年間のF-laboでの授業実践例についての報告がありました。
F-laboの参加者が増え、今年度からの参加者も数多くいることから、今までの授業実践を振り返ることで、先生方の理解を揃えることが目的のまとめの報告でした。さらに加藤先生からは、「これからもF-labo会員は、「どういった授業をすれば頑健な基礎的読解力が身につくのか」を常に考え、授業実践例を数多く蓄積していきましょう」との、会員への呼びかけがありました。

 

 

 

 

 

 

 

F-laboのロゴマーク。たちあおいの花言葉:「大望」「豊かな実り」。

 

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講演を行いました(福島県相馬市教育委員会)

8月18日(火)、相馬市民会館において、当研究所所長・代表理事の新井紀子が「AI vs教科書が読めない子どもたち-基礎的読解力は人生を左右する-」と題し講演を行いました。

 

相馬市教育委員会のRST導入に先立ち行われた講演会には、市内の教職員、県の教育関係者、県議会議員、市議会議員など300名を超える方々が参加されました。今年度、相馬市教育委員会では、市内の小中学生の基礎的読解力の向上を図るため、全ての小学校6年生と中学校1年生から3年生合わせて約1,270名と、全教職員225名のRST受検を10月中旬に実施する予定です。

 

講演では、教科の得意・不得意や好き嫌いにかかわらず、教科書に書かれてある内容を正しく理解する頑健な基礎的読解力を小中学校時代に身につけることが重要であり、読解力により子どもたちの将来が左右される可能性があることを説明し、そのうえで、中学を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすることが、公教育の最重要課題であることなどをお話しさせていただきました。

講演終了後には活発な質疑応答も行われ、先生方の関心の高さが窺われました。講演終了後、福地教育長より、「教育長としての方向性の絞り込みは、読解力の向上であり、リーディングスキルテストの活用だと考えている。今日をスタートとし、RSTの結果分析を授業に落とし込み、教員の授業力向上と子どもたちの本物の学力向上につなげていく」との力強いお言葉をいただきました。

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F-laboを再開しました(rst-labo ふくしま)

rst-labo ふくしま(通称:F-labo)では毎月例会を開催し、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学びあいを行っています。

新型コロナウイル感染症の拡大を受けて、しばらく開催を見合わせていましたが、7月25日(土)に郡山市労働福祉会館で5カ月ぶりの開催となりました。

開催にあたっては、郡山市のガイドラインに基づき、マスク着用、密にならないような座席配置、消毒液の準備などを徹底しました。

まず、平田村立蓬田小学校の佐藤春奈先生から、視写と音読についての実践報告がありました。視写では視写用のシートを使い、3分間で教科書の文書を写し、ペアで誤字脱字をチェックし、何文字写せたかを記録します。シートにして蓄積することが、子どもたちの達成感につながっているそうです。また、音読では「音読タイム」を設け、当該学年以降の教科書の文書を読ませているそうです。視写と音読の両方を取り入れることで、「言葉のまとまりを意識するようになった」などの子どもたちの変容がみらたことが報告されました。

次に、いわき市立湯本第一小学校の徳永一夢先生からは、RSの6つの観点をどのように授業に取り入れているのか、7つの実践報告がありました。例えば、4年算数「角の大きさ」の単元では、「オセロの実況中継」(『AIに負けない子どもを育てる』の204ページ)を参考に、分度器の使い方を言語化し、それに基づいて分度器を使う授業を行ったそうです。授業を通じて、定義の重要性を子どもたちは感じたようです。また、授業を行うにあたっては、リーディングスキルテストのための授業を目指すのではなく、教科の本質にせまることが大切であると報告がありました。

当研究所研究員の目黒朋子からは、2月に開催された板橋区立第六小学校の研究授業報告を行いました。報告では、1年算数「ずをつかってかんがえよう」、3年理科「じしゃくにつけよう」、4年理科「物のああたたまりかた」、5年社会「社会を変える情報」において、RSのどの観点を意識して授業が組み立てられているのかが紹介されました。

 

当日は、当研究所研究員の菅原真悟による作問ワークショップも開催しました。

菅原からは、子どもたちがどのような文を読むのを苦手としているのかを、問題を作る過程で考えることがワークショップのねらいであると趣旨説明をし、それから小学校から高校までの教科書を用いて、「係り受け」と「照応解決」の問題を実際に作ってみることに参加者全員で取り組みました。

自分たちで実際に問題を作ってみることで、文の構造を理解するとはどのようなことなのか、子どもたちはどのような文を読むのを苦手としているのかを、あらためて考えるきっかけになったようです。

 

F-laboでは、今後も定期的に例会を開催し、子どもたちの読解力育成方法を検討する取り組みを、先生方の実践を通して発展させていきます。

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講演を行いました(HITOWAキッズライフ株式会社)

 HITOWAキッズライフ株式会社は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、北海道を中心に認可保育園、保育所を運営しています。

 同社では子どもの育成・保育活動に生かすことを目的に、社員(保育者)を対象としたリーディングスキルテストを実施し、受検後のサポートとして当研究所の目黒上席研究員が講演を行いました。

 講演では「AI時代に求められるリーディングスキルとは」と題し、受検結果の講評及び結果をどう仕事に活かすか、また、子どもたちが生きていく時代を見据えたリーディングスキルの必要性についてお話ししました。

  保育園の園長先生が対象の講演会ということで、子どもと接する身近な大人である先生方が使う言葉が、いかに子どもたちのリーディンクスキルに影響するかをふまえ、「子どもの話す機会を奪わない、読み聞かせなどの機会を数多く持つ、ごっご遊びを通して言葉の概念を獲得させる、自然界の営みを観察する十分な機会を与え五感を働かせる」など、日々の保育現場での有効な手立てについてもお話しさせていただきました。

  新型コロナウイルス感染防止のため、会場参加ではなくオンラインによる講演となりましたが、約90名の受講者は熱心に聴講され、「講師のお話が明瞭明快で非常に興味深かった」「リーディングスキルは強いチームづくりに必要だと感じた」など多くの感想が寄せられました。

(RST事務局)

HITOWAキッズライフ株式会社
https://www.hitowa.com/kids-life/

 

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