活動報告

【動画あり】読解力がなぜ必要か?AI時代の読解力(角川ドワンゴ学園)

11月30日(木)に、角川ドワンゴ学園STEAM系女子プログラムにおいて、弊所代表理事・所長の新井紀子が「読解力がなぜ必要か?AI時代の読解力」と題して講義を行いました。

講義は、角川ドワンゴ学園N高等学校・S高等学校・N中等部の生徒さんを対象に、学習を進める上で必要となる「読解力」とは何か、自身が効果的に学習できているか、また現在効果的に学習できていないとして、今後どうやって高めていくか...など、AI時代に必要な「読解力」について扱っています。

講義の内容は、下記のN高等学校・S高等学校のYouTubeチャンネルで視聴いただけます。

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大学初年次教育での取り組み

毎年1年生全員がRSTを受検する都内のとある社会科学系学部があります。

担当のI教授にRST継続の理由やその活用方法をお尋ねしたのでご紹介します。

I教授はその大学の必修の初年次教育の講義を担当されています。人数は毎年250名程度です。その講義の一回目でRSTを全員が受検するそうです。受検し終えたら「評価(フィードバック)を必ずスマホで撮影する」ことを義務づけています。スマホの画面を見ながら、各自、自分の読解のどこに課題があるかを把握するのが一回目の講義の目標です。

その後も、「フィードバックの内容を踏まえながら」日経新聞の記事を読むことを課題として課し続け、読解力を上げることで大学の講義やゼミについていけるようになろう、資格試験に合格できるようになろう、と目標を掲げてトレーニングを奨励しつづけるとのことです。

そして、最後の講義でもう一度学生たちはRSTを受検します。成績に加味されるということもあり、真剣に受検するそうです。「二度目の受検結果は、一度目より有意によくなっています」とのこと。

「RSTを受検できてよかった」という学生のコメントが多いので、毎年受検を続けている、というのも興味深い点です。RSTは45分、相当に集中して解かなければならないので、小中学生だけでなく大学生や大人の中にも「疲れる」との感想を漏らす受検者は少なくありません。ですが、「自分の読解力を診断してもらえる機会は他にないので、受検してよかった」「どうして伸び悩んでいたのかわかった気がする」というような感想が学生から多く聞かれるというのは嬉しい驚きでした。

大学でもRSTを通じて、学生の読解力向上に取り組んでいるという事例としてご紹介しました。大学生や大人のRS向上に悩んでいる機関や会社のご参考になれば嬉しいです。

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読解力の向上に役立つ『RSノート』の取り組み(燕市)

燕市はRSTを2021年度に導入し、市内の小学6年生から中学3年生までRSTを受検しています。読解力に対する先生方の興味関心も高く、自発的にRSTを受検する先生が多い市です。2023年度の全国学テでは、中学校が大きく成績を伸ばしました。

昨年は(コロナ禍のため)オンラインで現地の算数の授業を拝見し、コメントをさせていただきました。今年度は、まずRSTノートを導入した学校を視察しました。その後で、RSノートと授業を両輪で回していくことが、子どもたちの読解力向上、学力向上、そして先生方の授業への自信や働き方改革につながるという道筋について、先生方に具体的にお話しさせていただきました。(講演の内容は、尾花沢市とほぼ同じです。)

市内で「RSノート」への取り組みをまず進めてくださったのは吉田中学校でした。

中学校は教科担任制です。自分は専門ではない科目のRSノートを見るには、中学校の先生にとって心理的ハードルが高いことと思います。にもかかわらず、取り組みを引受けてくださった吉田中学校の先生方には感謝の気持ちでいっぱいです。

燕市では、もともと自学ノートを作ることには積極的でした。また、毎日の時間割に「長善タイム」が設けられ、学校で自習をする習慣があります。その中でRSノートに取り組む時間を捻出しています。私が視察した木曜日は「イメージ同定」の日、だそうで、どの学年も社会科や理科の指定されたページの指定された資料から言えることをノートに書き出していました。子どもたちはすぐに慣れるもので、RSノートに取り組み始めてまだ2ヶ月経っていないのに、「今日はイメージ同定ですか」とか「具体例同定やってもいいですか」などとRSTの用語を使いこなしているようです。

燕市のように学校でRSノートに取り組む時間を10分でも取れるところは、その間、先生にはぜひ「机間巡視」をしていただきたいです。10分間は短いですので、30秒で日付や指定された教科書の箇所をノートに書き、1分で指定された教科書の箇所を開けるようにしたいですね。子どもたちがさっと始めるように、良い前向きな声掛けをして心を配りたいところです。残りは8分30秒。ポストイットと赤ペンを持って机間巡視をしましょう。

このとき、専門外の教科について正しく指導しなければ、と思うと気が重くなりますが、ポイントを押さえれば、誰でも上手にコメントすることができます。イメージ同定の代表例である「(社会科の)グラフ」の読み取りでは、次のようなことに注意すると上手に特徴を読み取ることができます。

  1. グラフのタイトルを上手に使う。グラフのタイトルが「日本の工業生産にしめる中小工場と大工場の割合」ならば、「日本の工業生産」「中小工場」「大工場」「しめる割合」という言葉を使うと的確な文が書けます。
  2. 縦軸、横軸が何かを意識する。横軸が年、縦軸が生産量(単位はトン)など。
  3. 大きく増えているものに注目し、主語を正しく選びながら、1の「グラフのタイトル」を使って文にする。
  4. 大きく減っているものに注目し、主語を正しく選びながら、1の「グラフのタイトル」を使って文にする。
  5. 量が増えているのか、割合が増えているのか区別する。

このポイントを意識しながら、机間巡視をしつつ声掛けをしましょう。3と4の「増えている・減っている」が書けるようになったら、「どのように増えた(減った)」がわかるように、的確に言葉を補えるようにしたいですね。

「増えた」→「急激に増えた」と書けるようになったら、「急激に」のところに赤丸をし、「『急激に』って書けたね。かっこいいね。すごくいいと思うよ」と励ましましょう。

「急激に増えた」→「1960年代から1990年代にかけて急激に増加した」と書けるようになったら、「「1960年代から1990年代にかけて」や「増加した」が書けたね。すごくわかりやすくなったね」とほめて、赤丸をつけましょう。また、声に出してほめ、クラス全体でも「的確な表現をすることが良いこと」だと、評価の視点が共有されるようにするとよいでしょう。用語の誤り等に気付いたら、ポストイットを貼り、「もう一度考えてごらん」「教科書をよく見比べてごらん」と声掛けしましょう。

このように机間巡視をすると、「増えた・減ったはわかっても、割合なのか総量なのかがわかっていない」「用語が定着していない」など子どもたちの課題が見えてきます。それを授業に活かすと、クラス全体の底上げにもつながります。

燕市での講演会には、はるばる泉大津市から視察の先生方がお越しになりました。泉大津市の指導主事に、燕市の指導主事が「RSTは一校ではなく、全校で取組んだほうがいいです。そうでないと、教員は自信をもって読解力に取り組めません。本当はどの学校に異動しても読解力に取り組み続けられるように、新潟県全体、いや日本全部で導入してほしいです」と力説する姿を見て、胸が熱くなりました。

燕市の先生方、本当に有難うございました。

※写真は、具体例同定に取り組んだ生徒のノートから。本人の許可を得て掲載しています。

 

 

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RSノートと連動した授業案について(尾花沢市)

尾花沢市は今年度から小学5年生から中学生まで、RSTを導入した自治体です。私は、普段から尾花沢市(および山形県)を「読解」の材料としてよく使います。

  1. 山形は盆地が多く、夏は暑い。
  2. 山形は盆地が多く、スイカの名産地である。
  3. 山形は盆地が多く、花笠まつりで有名だ。

「多く」は「多い」の連用形です。「多く」で止める用法を連用中止といいますが、この3つの文の「多く」は、形は同じでも、使う意図がちがいますね。1は「原因や理由を表す」ための連用中止です。3は単に2つの文を並列させています。2はどちらかはっきりしませんが、実は、盆地は朝晩の気温差が大きく、スイカの生育に適しているそうです。(山形県ホームページより)

社会科では、連用中止が多用され、それが、1の使い方なのか、3の使い方なのかを読み分けられるか否かは、社会科の教科書をひとつのまとまった知識として読めるか、それとも羅列に見えてしまうかを大きく左右します。そのような読み方指導を社会科でしているでしょうか。

そんな問いかけから、尾花沢市での講演会は始まりました。

今回の講演会は、尾花沢市教育委員会側からのご希望もあり、「RSノートと授業との関連」を中心にお話ししました。

現在、多くの自治体で「自学ノート」や「自習ノート」の取り組みが広がっています。小学校低学年や中学年は、ドリルや漢字の書き取りなど、指定した宿題をさせることが多いようですが、高学年になると学力差がつき、定型的な宿題をさせることが難しく、「自分でしたいことをやってきましょう」と自主性に任せる自治体が少なくありません。中には、素晴らしい自由研究をする子もいますが、多くの子は、「何をやっていいかわからない」状態に陥ります。

そこで提案したいのが、「RSノート」です。

RSTを受検すると、6つの分野での受検者の結果に合わせた学習アドバイス(フィードバック)が表示されます。この学習アドバイスに従って1年間頑張ってみると、それぞれの分野の苦手な部分が改善し、不安なく授業に参加できたり、自信をもって手を挙げたり、自学自習できるようになります。

一方で、クラス全員の自学ノートをチェックする時間が取れないとか、授業とどのように関連させればよいか、というお悩みも聞きます。

そこで、今回は、具体例同定とイメージ同定の2つの分野について、自学ノートと普段の授業をどのように連携させるとよいかについてお話しをしました。

まず、RSTでDやEの評価がついている児童・生徒(約1/3)は、実は、(算数・理科・社会・英語では)およそ「見開き2ページずつ授業が進む」ということを理解していないことが往々にしてあります。DやEの評価のついた児童生徒に、「今週、社会科はどこまで進みましたか?」と聞いてみてください。答えられない子が大変多いことでしょう。こうしたクラスでは、先生が教科書を使わずに授業を進めていることが多く、中高生の場合、定期試験対策も先生が配布したプリントを中心に行うことが多いようです。

まず、教科書を開く、というところから、授業改善を始めてください。

また、読解力下位の児童生徒では、見開き2ページの情報から、特定の単語を見つけるという視覚による情報検索の力が不十分な子が少なくありません。授業の冒頭で、今日の授業のキーワードになる言葉を、見開き2ページから見つけ出すゲーム(私は「ウォーリーを探せ」と呼んでいます)を30秒してみてください。たとえば、東京書籍の「地理A」p88~89の見開き2ページから「ヒンドゥー教徒を見つけましょう」という課題をします。本文には1カ所出てきますが、それ以外に、資料に2か所出てきます。最初は全員が本文中に見つけることを目指し、最終的には、資料や欄外註も含めて見つけられるようトレーニングをするとよいでしょう。教科書のレイアウトに慣れ、キーワードが目に飛び込んでくるようにすると、授業で問いかけたときの反応がよくなります。また授業の冒頭でゲーム感覚でトレーニングすることで、集中力も高まることが期待できます。そして、当然、今日はこの見開き2ページを学ぶのだな、という心構えができます。

学力テストの結果とRSTを見比べると、特にイメージ同定や具体例同定の能力値が高い児童生徒は学テの結果が良いという傾向が見られます。イメージ同定は、テキスト部分(本文)と資料を突き合わせ、資料のどの部分が本文の根拠になっているかを読み解く力を測っているため、資料が多くテキスト分量も多い全国学テとの相関が高いのは自然なことでしょう。

RSTを受検すると、イメージ同定の分野について、非テキスト情報を読み解く際、「どんなことを日ごろ気をつけて学習すればよいか」のフィードバックが表示されます。それをノートに貼り、実践します。また、子どもたちに届いているフィードバックを教員が把握し、授業に活かします。

まずは、資料の読み方の基本を学年全体で共有し、「資料の特徴を挙げる」活動をグループでさせるときに、観点として共有しましょう。社会科の資料の読み方は、教科書に明記されています。ただし、一朝一夕で身に付くような簡単な内容ではありません。繰り返し実践して、初めて身に付きます。しかも、資料の読み解きは、学年進行で難しくなるので、中高の先生も油断はできません。たとえば、5年生では、算数で割合や%を学びますが、定着しないことで悪名高い単元です。RSTでも、比が出てくると正答率が一気に下がります。にもかかわらず、社会科では、当然のように資料に割合や%が頻出します。算数だけでは身に付かない比や割合の感覚を、社会科の資料の読み方を通じて身に付けるようにしたいものです。ですが、小学校高学年の社会科の授業で、RSが低い子が「肉が多い」のように発言した際、「〇〇に占める肉の量(割合)が最も多い」のように訂正を促す先生はほとんどいません。どの子にも発言させたいがゆえに、授業では訂正しづらくなってしまったいるのでしょう。

こんな風に工夫をしてみてはいかがでしょう。

資料の読み方の基本を箇条書きで紙に書き、資料を読む前には、それを黒板に貼りましょう。そして、その読み方に則って特徴を挙るように指導しましょう。東京書籍の5年生の社会科の教科書では、次のように資料を読むことを奨励しています。

  • 図表のタイトルを使って表現する。(例:「一人1日あたりの食べもののわりあいの変化」)
  • 縦軸と横軸の単位に気をつける。(例:万t(マントン)と読めるか。総量なのか割合なのか)
  • 減っているものや増えているものに注目する。
    • 減り方や増え方を適切に学習言語で補う。(例:1960年代に比べて倍増した、急増した)(ダメな例:めっちゃ増えた)
  • 多いもの、少ないものに注目する。
    • 「〇は×より多い」のように比較対象を明確にする。
    • どれだけ多いかを適切に学習言語で表現する。(例:中小工場の数は、大工場より多い。)
  • 表現しようとしている対象を正確にとらえる。
    • 割合なのか、総量なのかを明確にする。
    • 数なのか、生産量なのか、生産額なのかを明確にする。
  • 変化しないものにも注目する。

「気づいたことを挙げてみよう」「わかったことを話し合おう」というアクティブラーニングの授業は多いですが、吟味する観点を指定する授業は私の経験上は、残念ながら見た事がありません。資料を「どのような観点で」「どのように表現すればよいか」を学年で共有し、授業でも実践し、RSノートで確認することで、その学年のうちに確実に身に付けておきたい資料の読み取り方を習得できるようになります。

先生方にも「まずは1週間子どもの気持ちになってRSノートをつけてみてください」とお願いしています。どなたも、「やってみると意外に頭を使う」と仰います。先生自身の授業力向上にもきっと役立つはずです。

 

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川南町でRSノート指導、講演を行いました。

宮崎県川南町はRST導入2年目の自治体です。毎年約千人が受検をしています。宮崎大学教育学部と連携し、RSTの結果と学テなどの総合的学力との関係の調査も始めた意欲的な町です。

8月21日に、午前中は町内の5つの小学校と2つの中学校の管理職と研究主任の先生方を主な対象として、RSTの結果をどのように学力向上に活かせばよいかについて、指導助言をしました。

RSTは受検者の読みを可視化し診断するテストです。「読み」は外からは見えないので、他の人がどんな風に読んでいるのか、理解しているのか、知る術がありません。一方、達成度を測るテストやドリルは頻繁に行われるので、子どもたちの多くが、自分の読みの得手・不得手や偏りを自覚しないまま、達成度テストの点数を見て、「自分は頭が悪い」「自分は理数系は苦手」などの(誤った)自己認識を持ってしまいがちです。RSTでは、受検者の読みを可視化し、受検者の特性や発達段階に合わせたフィードバックを返却することで、「今年一年どんなことに取り組めば、もっと巧く読めるようになるのか・授業だけで十分に学ぶことができるのか」を学習者と指導者が共に認識するためのテストです。

午前中は、(相馬市で実践したような)「個別最適化」「自己調整のための」RSノートの活用についてお話ししました。川南町では既に自学ノートを取り入れているので、自学ノートの一環として、RSノートに取り組んでいくことをお勧めしました。小学5年生でまず各自が自分の読みの凸凹を意識し、調整の仕方を小学校で学び、2年かけて基本的な教科書の読みを身に付けておくと、中学校に進学して、突然成績が下がる・勉強が嫌になる、ということを避けることができるのです。

午後は、AI時代だからこそ、RSTで測る「汎用的読解力」「自学自習力」がいかに重要になるかについてお話しをしました。その中で、興味深いエピソードがありましたので、ご紹介します。

「RSTの『イメージ同定力』と総合的学力との間には、0.65以上の高い相関があることが各自治体の報告からわかっています。ですので、どの自治体も『イメージ同定力を上げたい』と仰います。『イメージ同定』の『イメージ』とは、テキスト(文章)以外の情報(非テキスト情報)のことを指します。では、教科書の中で、どんな情報がイメージに該当するでしょう

この質問に対して、「絵」という答えが出た後、なかなか手が挙がりません。ようやく「グラフ」と「表」を挙げてくれる先生がいました。

他にどんな『イメージ』があるか。みなさんもぜひ考えてみてください。答えは「続き」へ。

 

他には、こんなものが『イメージ』に該当します。

地図、年表、写真、図形、テープ図や数直線、数式、概念図(三権分立の関係など)、楽譜

いかがでしょう。「え、数式もイメージなの?」と思われるかもしれませんが、「教科書に登場する、文章以外の情報」に該当しますね。このように考えると、「イメージ同定力」が総合的学力に直結することにうなづく方が少なくないことでしょう。しかも、写真や絵が多かった小学校中学年までの教科書は、高学年になるに従って多様な『非テキスト情報」が増加します。複数の非テキスト情報を根拠にしながら、本文を読み解くことが高学年以上では求められるのです。それは子どもたちにとって大変なことです。RSTを活用して、どの子も自信をもって中学進学・高校進学できるようにしたいですね。

それには、まず教員が率先して、教科書が、テキスト情報、非テキスト情報を駆使して、総合的にどのように情報を伝えようとしているかの「仕組み」を理解することから始めましょう。

 

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