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RSノートと連動した授業案について(尾花沢市)

尾花沢市は今年度から小学5年生から中学生まで、RSTを導入した自治体です。私は、普段から尾花沢市(および山形県)を「読解」の材料としてよく使います。

  1. 山形は盆地が多く、夏は暑い。
  2. 山形は盆地が多く、スイカの名産地である。
  3. 山形は盆地が多く、花笠まつりで有名だ。

「多く」は「多い」の連用形です。「多く」で止める用法を連用中止といいますが、この3つの文の「多く」は、形は同じでも、使う意図がちがいますね。1は「原因や理由を表す」ための連用中止です。3は単に2つの文を並列させています。2はどちらかはっきりしませんが、実は、盆地は朝晩の気温差が大きく、スイカの生育に適しているそうです。(山形県ホームページより)

社会科では、連用中止が多用され、それが、1の使い方なのか、3の使い方なのかを読み分けられるか否かは、社会科の教科書をひとつのまとまった知識として読めるか、それとも羅列に見えてしまうかを大きく左右します。そのような読み方指導を社会科でしているでしょうか。

そんな問いかけから、尾花沢市での講演会は始まりました。

今回の講演会は、尾花沢市教育委員会側からのご希望もあり、「RSノートと授業との関連」を中心にお話ししました。

現在、多くの自治体で「自学ノート」や「自習ノート」の取り組みが広がっています。小学校低学年や中学年は、ドリルや漢字の書き取りなど、指定した宿題をさせることが多いようですが、高学年になると学力差がつき、定型的な宿題をさせることが難しく、「自分でしたいことをやってきましょう」と自主性に任せる自治体が少なくありません。中には、素晴らしい自由研究をする子もいますが、多くの子は、「何をやっていいかわからない」状態に陥ります。

そこで提案したいのが、「RSノート」です。

RSTを受検すると、6つの分野での受検者の結果に合わせた学習アドバイス(フィードバック)が表示されます。この学習アドバイスに従って1年間頑張ってみると、それぞれの分野の苦手な部分が改善し、不安なく授業に参加できたり、自信をもって手を挙げたり、自学自習できるようになります。

一方で、クラス全員の自学ノートをチェックする時間が取れないとか、授業とどのように関連させればよいか、というお悩みも聞きます。

そこで、今回は、具体例同定とイメージ同定の2つの分野について、自学ノートと普段の授業をどのように連携させるとよいかについてお話しをしました。

まず、RSTでDやEの評価がついている児童・生徒(約1/3)は、実は、(算数・理科・社会・英語では)およそ「見開き2ページずつ授業が進む」ということを理解していないことが往々にしてあります。DやEの評価のついた児童生徒に、「今週、社会科はどこまで進みましたか?」と聞いてみてください。答えられない子が大変多いことでしょう。こうしたクラスでは、先生が教科書を使わずに授業を進めていることが多く、中高生の場合、定期試験対策も先生が配布したプリントを中心に行うことが多いようです。

まず、教科書を開く、というところから、授業改善を始めてください。

また、読解力下位の児童生徒では、見開き2ページの情報から、特定の単語を見つけるという視覚による情報検索の力が不十分な子が少なくありません。授業の冒頭で、今日の授業のキーワードになる言葉を、見開き2ページから見つけ出すゲーム(私は「ウォーリーを探せ」と呼んでいます)を30秒してみてください。たとえば、東京書籍の「地理A」p88~89の見開き2ページから「ヒンドゥー教徒を見つけましょう」という課題をします。本文には1カ所出てきますが、それ以外に、資料に2か所出てきます。最初は全員が本文中に見つけることを目指し、最終的には、資料や欄外註も含めて見つけられるようトレーニングをするとよいでしょう。教科書のレイアウトに慣れ、キーワードが目に飛び込んでくるようにすると、授業で問いかけたときの反応がよくなります。また授業の冒頭でゲーム感覚でトレーニングすることで、集中力も高まることが期待できます。そして、当然、今日はこの見開き2ページを学ぶのだな、という心構えができます。

学力テストの結果とRSTを見比べると、特にイメージ同定や具体例同定の能力値が高い児童生徒は学テの結果が良いという傾向が見られます。イメージ同定は、テキスト部分(本文)と資料を突き合わせ、資料のどの部分が本文の根拠になっているかを読み解く力を測っているため、資料が多くテキスト分量も多い全国学テとの相関が高いのは自然なことでしょう。

RSTを受検すると、イメージ同定の分野について、非テキスト情報を読み解く際、「どんなことを日ごろ気をつけて学習すればよいか」のフィードバックが表示されます。それをノートに貼り、実践します。また、子どもたちに届いているフィードバックを教員が把握し、授業に活かします。

まずは、資料の読み方の基本を学年全体で共有し、「資料の特徴を挙げる」活動をグループでさせるときに、観点として共有しましょう。社会科の資料の読み方は、教科書に明記されています。ただし、一朝一夕で身に付くような簡単な内容ではありません。繰り返し実践して、初めて身に付きます。しかも、資料の読み解きは、学年進行で難しくなるので、中高の先生も油断はできません。たとえば、5年生では、算数で割合や%を学びますが、定着しないことで悪名高い単元です。RSTでも、比が出てくると正答率が一気に下がります。にもかかわらず、社会科では、当然のように資料に割合や%が頻出します。算数だけでは身に付かない比や割合の感覚を、社会科の資料の読み方を通じて身に付けるようにしたいものです。ですが、小学校高学年の社会科の授業で、RSが低い子が「肉が多い」のように発言した際、「〇〇に占める肉の量(割合)が最も多い」のように訂正を促す先生はほとんどいません。どの子にも発言させたいがゆえに、授業では訂正しづらくなってしまったいるのでしょう。

こんな風に工夫をしてみてはいかがでしょう。

資料の読み方の基本を箇条書きで紙に書き、資料を読む前には、それを黒板に貼りましょう。そして、その読み方に則って特徴を挙るように指導しましょう。東京書籍の5年生の社会科の教科書では、次のように資料を読むことを奨励しています。

  • 図表のタイトルを使って表現する。(例:「一人1日あたりの食べもののわりあいの変化」)
  • 縦軸と横軸の単位に気をつける。(例:万t(マントン)と読めるか。総量なのか割合なのか)
  • 減っているものや増えているものに注目する。
    • 減り方や増え方を適切に学習言語で補う。(例:1960年代に比べて倍増した、急増した)(ダメな例:めっちゃ増えた)
  • 多いもの、少ないものに注目する。
    • 「〇は×より多い」のように比較対象を明確にする。
    • どれだけ多いかを適切に学習言語で表現する。(例:中小工場の数は、大工場より多い。)
  • 表現しようとしている対象を正確にとらえる。
    • 割合なのか、総量なのかを明確にする。
    • 数なのか、生産量なのか、生産額なのかを明確にする。
  • 変化しないものにも注目する。

「気づいたことを挙げてみよう」「わかったことを話し合おう」というアクティブラーニングの授業は多いですが、吟味する観点を指定する授業は私の経験上は、残念ながら見た事がありません。資料を「どのような観点で」「どのように表現すればよいか」を学年で共有し、授業でも実践し、RSノートで確認することで、その学年のうちに確実に身に付けておきたい資料の読み取り方を習得できるようになります。

先生方にも「まずは1週間子どもの気持ちになってRSノートをつけてみてください」とお願いしています。どなたも、「やってみると意外に頭を使う」と仰います。先生自身の授業力向上にもきっと役立つはずです。

 

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